日記のバー


・・・あの時のことは、今でもはっきり憶えている。

音楽やこれから先の事で悩んでいたボクに
有名な音楽家から電話がかかってきた。
良い事務所を紹介してくれる・・との事だった。

ボクは全てが灰色の世界に居た。
右には大きな工場がイッパイあり
左のフェンスの下を見ると
灰色の山を削って砂をトラックに積んでいるようだった。

ボクは灰色の砂ぼこりのする灰色の坂を上っている。
そこに、人は全く居なかった。

大きなデパートには店もなく、
ただコンクリートの壁があるだけだったので、
ボクは一番上の階のボタンを押した。

扉が開き左を見ると
そこには驚くような煌びやかな店があった。
バーだった。

「フランス直輸入」と書かれた看板や
おいしそうな料理が店の前に置かれていた。
「フランス直輸入」は何を直輸入しているのか分からなかったけど、
ボクはそれがフランスの有名なレストランの料理であることは知っていた。

バーの扉を開けると中には人はいなかったけど
煌びやかな照明や、アンティークの家具などで
埋め尽くされ思わずウキウキした。


カウンターに行き、目の前のバーテンに
最近おぼえたマティーニを注文した。
何かの本で「マティーニ」のおいしさが
その店が、「本物」か「偽者」を決めると書いてあった。
飲んだことは無いけど、マティーニを頼む事で
ボクはカクテルの「通」になれるから。

ボクは少し緊張しながら「マティーニ」と言った。
大きな体でヒゲ面のドイツ人バーテンダーは
大きな声で笑い、笑い終わると顔を真っ赤にして怒った。

ボクは更に緊張しながら、隣にいたイギリス人のビールを
指差し「ディス」と言うとビールが出てきた。

ビールが出てきて安心したら、さっきのバーテンの態度に腹が立ったので
1,000円を出し「チップ」と言った。
(ここのビールは500円なので、お釣りの500円はお前にやるという意味で)

でも、今考えると、バーテンは笑ってなかったし
怒ってなかったのかもしれない。

隣のイギリス人は目線は前を向いたままで
何も喋らないけどボクは話しかけた。

ボクたちの後ろをどこの国か分からない
子供たちが走り回っていた。

気がつくと朝になっていたので家に帰ることにした。

でも、このバーにずーと居たいと思った。


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【1992 1/1 】
永久日記原文

初夢はフランスの超高級レストランからりょう理を直輸入している
デパートにあるボロボロのBARに行く夢だった。
とても楽しくビールをのんだ今もハッキリ目にやきついている。
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